近ごろ気になる作品 2017 秋
今回は、(いや、今回も?) いずれも白泉社系の作品。
鈴木ジュリエッタ 「トリピタカ・トリニーク」
前作「神様はじめました」が完結してからそんなに間が開くことなく連載が始まったこの作品、当初からヒロインが金属の環を頭につけていたり、三蔵と呼ばれる人物が登場したり、西遊記のモチーフがちらりちらりと見え隠れしていたのだが、ついに次話から西域へ法典を求めに旅立つという、原典のヴァリアントとしての性格を前面に出してくるようだ。
登場人物もここにきて、明言こそされていないものの、猪悟能と思しき存在が登場したり、沙悟浄のポジションになるのではないかと思われる者や、もしかすると白馬は……という具合に出そろってきている。そしてなによりもこの探求の旅は、天上界の求めるものではなく冥界が主導するという大きな特徴があり、いったいどんな冒険譚が始まるのかとても楽しみなところだ。
筒井美雪 「未完成ピアニスト」
この作者、以前は個性が強い作風だったような記憶があるが、それを抑えての最新作。これまで短期集中的に掲載を繰り返して、次話で一区切りになるもよう。
ヒロインは天部の才能を持ちながらも、極度のあがり症のためになかなか人前できちんと演奏できないでいるピアニスト志望の音楽高校生。コミックではなかなか表現に苦労しそうな素材だが、悲痛さを滲ませた演奏シーンや、楽しそうにピアノに向かうステージをしっかりと描き上げているので注目している。
作者はピアノという素材を選んだことを悔やんだこともあるようだが、たしかにコンサートグランドのピアノは、鍵盤の数は多いし、ボディも角度によってものすごく難しい形状になる。しかしとても面白い素材を扱った物語なので応援したい。
- 作者: 筒井美雪
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2017/08/04
- メディア: コミック
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斉木久美子 「かげきしょうじょ!!」
これまでも何度も取り上げているタイトルだけども、最新話ではついに……ついに、もう一人のヒロイン、奈良っちが一皮むける時がやってくる予感に満ちている。
最近の回で、少しずつその兆しを見せてはいたが、奈良っち自身が抱えている課題の一つを乗り越えて、高みへと上がろうとしているのを目の当たりにしてわくわくが止まらない。
今回の見せ場の大ゴマには思わず目頭が熱くなってしまった。
そして最新話はスピンオフ短編とのW掲載。まさかのあのキャラクターが主人公に……またしても切ない物語を持ってくる。もうほんとにこういうところが心憎い。
http://www.hakusensha.co.jp/kagekishojo/www.hakusensha.co.jp
youtu.be
近ごろ気になる作品
もう最新号が出ているので、いずれも前号掲載のこととなってしまうが、最近気にしている作品を二つほど。
斉木久美子「かげきしょうじょ!!」
10年に一度の大運動会のエピソードも一段落したところで、スピンオフ・ストーリーが登場。スピンオフでは主役の二人以外のキャラクターを焦点にして読み手の心揺るがすものを出してきている。
前回は鮮烈な真夏の光景と夢を目指す物語で、きらっきらときゅんきゅんと、そして切ない仕上がりとなっていたが、今回は冬組トップスターの音楽学校時代の出来事。
そこにあるのはいくつかの夢と挫折のモチーフ。華やかな舞台の世界に夢を求めていても、現実は時に残酷に運命を強いてくる。でもそれに挫けずに、新たな夢を目指す展開は作品内で取り上げている「オペラ座の怪人」のモチーフとも響き合って、実に泣ける物語になっている。
来月には最新刊となるコミックスも発売となる上に、集英社版の物語も、新たに電子化予定という。そこでは予科生同期の他のメンバーたちの物語が、奈良っちのヘヴィな過去が、白泉社版をより楽しむために大切なエピソードが満載だ。
- 作者: 斉木久美子
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2017/07/05
- メディア: コミック
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縞あさと「君は春に目を醒ます」
縞あさとは注目している作家の一人。前作「魔女くんと私」では、魔法が存在する現代社会での物語だったが、今回は医療技術としてのコールドスリープが存在する現代社会での物語を始めた。
主人公が兄のように慕う17歳の高校生男子は、病気の治療方法が確立するまでの間、人工冬眠で病状の進行を抑止する処置を受ける。そして7年が過ぎ、目を醒まし治療を受けた男子は、主人公と同学年になり、学校生活を過ごすことになる……。
ある意味ものすごくベタな設定ではあるが、そんなものをはね飛ばすくらいきゅんきゅんとさせてくれる。そしてなによりも、第1話はものすごく他メディア展開すると映えそうな光景が目白押しだ。たとえばアニメに。そうすることによって主人公の心情や、時の経過などをより効果的に表現することができるようになると思う。
ああ、自分にその能力があったなら! ほんとうに映像化してみたいと思わされた作品だった。
......
あれ? そういえば二つとも白泉社系だった……。