ヲタよ、想起せよ!

 原書、邦訳版ともにカヴァー・アートが映画「パシフィック・リム」を連想するSF長編『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』(ピーター・トライアス 著、中原尚哉 訳、早川書房)を読み終えた。この時期に、ようやくだが。


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 イラストは、ほんとうにパシフィック・リムで活躍したイェーガーを思い出させる。

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 ただし、本作中でのこういった「メカ」はメインの存在ではない。それでも読んでいて残る印象は大きいが、もっと根本にあるのは、第2次世界大戦で日独が勝利して、アメリカを分割統治する世界、そう、フィリップ・K・ディックの『高い城の男』と同様の設定の作品世界だ。
 『高い城の男』では、作中人物のホーソン・アベンゼンが記す小説「イナゴ身重く横たわる」が、アメリカが勝利した世界 (すなわち読者のリアルにリンクする世界) を示していて、その存在を徴づけるのが易経なのだが、『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』(以下『USJ』)では、「USA」というゲームであり、その媒体としてのツール、「電卓」だ。

 「電卓」は、巻末での大森望氏の解説によると、

 パーソナル・コンピューターやスマートフォンのかわりに、電卓(原文は、portable calculator を縮めた portical という造語) と呼ばれる携帯端末が高度に発達したジャパネスクなハイテク世界を背景に、ポストサイバーパンク的なノワールを展開する点も、『高い城の男』との大きな相違点。

とある。読んでいるとこの電卓は、スマートフォン様な高解像度大画面のようだが、ハードウェア・キーも備えていて、感覚的にはどちらかというと「ケータイ」に象徴されるフィーチャーフォンのような感じもするし、機械制御のような動作もしているので、CPUチップのような一面も有しているようだ。
 それでも電卓が人々に行き渡り、生活の中で欠くことができない存在であるのは読者側の現実にも通底していて、スリリングなリアリティを生み出している。



 余談ながら自分にとって電卓といえば、ドイツ人のエンジニア的なアーティストからもたらされるものというイメージがとても大きい。

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 ただ『USJ』の作品世界中ではこのようなライブは公式には行われることはないだろう。なぜなら、ドイツとは同じ戦勝国でありながらも、世界統治をめぐって覇権争いを繰り広げているようで、文化交流はそんなに深くはないかもしれないからだ。



 閑話休題


 先に引用した大森望氏の文章からも伝わるかもしれないが、『USJ』は『高い城の男』の続編ではないし、同一の世界の物語でもない。設定の根幹となる部分の一部が同じシチュエーションではあるが、別個のものだ。
 むしろ直立二足歩行する大型の「メカ」とか、大きな意味を持ってくるゲームとか、現代のヲタクが、より想像力を広げやすいメソッドがあふれている。この「メカ」は、映画「パシフィック・リム」でのイェーガーをめぐるあるエピソードに通じるような描写もあり、けっしてメインで使われ続けるメソッドではないものの、とても印象的だ。
 メカとしての機種もいくつも存在するし、戦闘シーンもあり、映像化するとものすごく映えそうに思うのだが、誰か映像コンテンツ化しようというツワモノなプロデューサーはいないだろうか。
 ただし、『USJ』はかなりハードな描写も続出するので、そのままでは現代では企画として通りにくいだろうが。斬首とか、拷問とか、今の時代ではちょっと難しいかもしれない……。

 だから、まずは、想像力をフルパワーで稼働させてみることをおすすめしたい。読書として。
 その結果、かなりエキサイティングなヴィジョンが連続すること間違いない。

 そして行き着く最終章、その意味を知ると……ものすごいドラマが待っている。そこには。なかなかのインパクトになると思う。だからおすすめだ。読まないと損をする!



ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

あれもこれもみんなほしい

 そんなマニアの心境。でも物事には必要な資金もあるし、保管に場所が必要になるケースもある。



 ハイクにこんなことを書いた。

浦沢直樹の PLUTO、MONSTER、BILLY BAT あたりは未読な... - 知らんがな - ごみGOがとまらない - はてなハイク

 コミックは目を通す雑誌は絞っている上に、置く場所がないのでコミックスも買うものは絞っている。なので作者の方々には申し訳ないが、気になるタイトルはレンタルのお世話になっている。

 最近読んだものの一つが、雨隠ギド甘々と稲妻」8巻。
 運動会でつむぎが全力で走る大ゴマ、そして競技が終わった後に風が吹き上げる場面、思わずうるっときてしまった。おそらく暗喩的に、暗喩的にネームも直接的な描画もなく、あることを仄めかしているのだろうが、その内容がこれまでに積み上げてきたエピソードをいろいろと思い浮かべさせられて、印象的な場面になっている。
 他にも変化が起きて、起ころうとしている回が集まっている8巻。まずい。なんか一気に買ってしまいそうな気がする。8巻。まだ8巻……。

甘々と稲妻(8) (アフタヌーンKC)

甘々と稲妻(8) (アフタヌーンKC)



 さてもう一つ最近読んでいるのが山下和美「ランド」。 浦沢直樹の漫勉で、序盤の回の作業を取り上げていたタイトルだ。

 第1巻のページ数がやたらとある。本編終了で362ページ。分厚い。
 おそらくその最後で、それまでの何気ないやりとりで想像できる内容がまさにその通りだと示すところまでまとめたかったのではないかと思う。それほどの作品世界の大きさを感じる。
 その内容は、あるカテゴライズに含まれるものになるのだが、その後の物語でもなかなか直接には描かれない。3巻に至ってようやくこれから明らかになっていくのだろうかという感じだ。はてさて。いったい物語が見せる世界の全容はどんなものだろう?





 コミックスは本当は別に2タイトルほど気になるものをまとめようかと思っていたのに、ちょっとスケジュールがばたばたになってしまって手が付けられないでいる。せっかく読み直したものもあるというのに……。

感情のTyphoonが私をさらう

 最近ではアニメの放送枠が多すぎるので、とてもすべてをチェックするのは無理という建前にして、事前にはあまり情報を確かめたりせずに、とりあえず観られるものを観て選んでいくというスタイルをとり続けている。(逆に、徹底的に事前の情報を精査して、観るべきものを選び挙げていくという選択もあるだろうが、自分にはその手法は無理だ。)

 そんなこともあって、2016年4月に始まった「マクロスΔ」は、最初は特に何も意識しないでいた。タイトルからして、あのシリーズなのか、程度にしか考えていなかった。(ちなみに初代のTVシリーズは何かしらの形で一通り見てはいるが、その後のタイトルは未着手といったレベルの視聴者だ。)
 もしかしたら、何かをしながらの視聴が続いていたかもしれない。ユニットなのかとか、メカのシルエットがスマートだなとかは感じていても、その後の枠にあった「コンクリートレボルティオ 超人幻想」2期や、前夜の「田中くんはいつもけだるげ」の緩さのほうに意識が向いていたかもしれない。
 それが第6話で印象が一変する。主人公たちの出会い、オーディションに入隊試験、初ライブとエピソードを重ねてきた上で、ついに戦術音楽ユニット ワルキューレΔ小隊とともに戦線に出る回。初めて流れるハードな楽曲「Walkure Attack!」をバックに、歌姫たちが投影されるアステロイド群の中でのドッグ・ファイト、これにノック・アウトされた。
 すぐに配信で第1話から見なおすことに。初回の終盤からパワフルなスカに乗せて見せ場を連発しているのに気づいたり、一気に集中して観る態度に切り替わった。

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2017年初頭のコミックス

 収容場所がなくなってきているので買う量を減らそうと心に誓ったコミックス。なのに……買ってしまったコミックス。控えなければならないのに。
 だから自戒のためにもまとめておこう。今月はもうこれで終わりにするし。



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 月刊LaLaに掲載された縞あさとの初コミックス。魔法が使える魔女が存在するという点以外は現代とよく似た世界の高校が舞台。
 作品タイトルで察しが良い人は気づくかもしれないが、物語に登場するのは男の魔女。魔法を使えるのは基本的に女性のみ(だから魔女と呼ばれている)だが、まれに男性の魔女も存在するというのが作品世界の設定。ただこの男の魔女も、魔法の力は女性の中に源があるため、魔法を使うには女性に触れなければならない。

 と、まあそんな甘酸っぱい学園生活。注目している作者なのでこれからもがんばってほしい。

 余談ながら、これはハイクにも書いたけれども、第1話はほんとうに小川美潮「デンキ」を思い浮かべてしまう。

小川美潮 デンキ

魔女くんと私 (花とゆめCOMICS)

魔女くんと私 (花とゆめCOMICS)



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 スエカネクミコのコミックスも久しぶりに買った。

 1話が試し読みできるはずだから、ちょっとネタバレしても良いかな? 帯にもあるように、マリー・アントワネットが主人公で、オーストリアからフランスに輿入れしようというところから物語が始まるのだけど、実は男の娘。そして何が「最凶」かというとこれがまあ……。とにかく進行がテンポ良い。雑誌連載だと物語はどこまで進行してるのだろう? 気になるところだ。



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 これは実は去年の11月刊行のもの。発売直後に目にした記憶はあるのだけど、買うのを忘れていた。

 水城せとな、今はイブニングで連載していたとは。小学生からの幼なじみの青年3人が、誰が一番不幸になるかを競い合うというのが基本的な状況なのだけど、そこにまさに「セカイ」が絡んできていて、「脳内ポイズンベリー」とはまた少し違ったベクトルを持ったファンタジー要素が挿入されている。この挿入されているものを象徴する存在がこれまた天然なのかはたまた計算なのか、読み切れないところが不思議な空気感を醸し出している。
 1巻だとまだ物語が動き始めようとしている段階だが、すでに3人のうち一人にけっこうヘヴィな過去があることが示されていて、この先が気になる。それは4月刊行予定の2巻に期待!


世界で一番、俺が〇〇(1) (イブニングKC)

世界で一番、俺が〇〇(1) (イブニングKC)