感情のTyphoonが私をさらう

 最近ではアニメの放送枠が多すぎるので、とてもすべてをチェックするのは無理という建前にして、事前にはあまり情報を確かめたりせずに、とりあえず観られるものを観て選んでいくというスタイルをとり続けている。(逆に、徹底的に事前の情報を精査して、観るべきものを選び挙げていくという選択もあるだろうが、自分にはその手法は無理だ。)

 そんなこともあって、2016年4月に始まった「マクロスΔ」は、最初は特に何も意識しないでいた。タイトルからして、あのシリーズなのか、程度にしか考えていなかった。(ちなみに初代のTVシリーズは何かしらの形で一通り見てはいるが、その後のタイトルは未着手といったレベルの視聴者だ。)
 もしかしたら、何かをしながらの視聴が続いていたかもしれない。ユニットなのかとか、メカのシルエットがスマートだなとかは感じていても、その後の枠にあった「コンクリートレボルティオ 超人幻想」2期や、前夜の「田中くんはいつもけだるげ」の緩さのほうに意識が向いていたかもしれない。
 それが第6話で印象が一変する。主人公たちの出会い、オーディションに入隊試験、初ライブとエピソードを重ねてきた上で、ついに戦術音楽ユニット ワルキューレΔ小隊とともに戦線に出る回。初めて流れるハードな楽曲「Walkure Attack!」をバックに、歌姫たちが投影されるアステロイド群の中でのドッグ・ファイト、これにノック・アウトされた。
 すぐに配信で第1話から見なおすことに。初回の終盤からパワフルなスカに乗せて見せ場を連発しているのに気づいたり、一気に集中して観る態度に切り替わった。




 第2クールになってすぐの7月6日に発売されたアルバムはすかさず購入した。

Walkure Attack!(通常盤)

Walkure Attack!(通常盤)

 これにまた激ハマり。しばらくはこのアルバムばかり聴いていた。一週間とかいうレベルじゃない。一月経ってもまだ熱が冷めなかった。


ワルキューレ/1stアルバム「Walküre Attack!」クロスフェード動画_TVアニメ「マクロスΔ(デルタ)」より

 なんとなく聴いてしまうとアップテンポの四つ打ち程度に思ってしまうかもしれないが、実は細かな手数がたくさん詰まっている楽曲はさまざまな作曲家が手がけていてバラエティに富んでいる。そして何よりも単にユニゾンで終わらせてしまわないヴォーカル。5人分のハーモニーをバッチリ決めるサウンドにはぞくっときた。レコーディング当時はまだ14歳だったJUNNAのトラックは、迫力も存在感も桁違いに思えた。
 ほんとうに何度も何度も聴いた。まさにヘヴィー・ローテになった。聴いているだけで感情が揺さぶられることも何度もあった。まるで感情を司るなにかがわしづかみにされて振り回されているかのような。こんな感じを味わうのも実に久しぶりのことだった。

 9月、Zepp ダイバーシティ東京でのライブはチケットが入手できなかった。でもその前日のミニ・イベントはフリーだったので、(まだ残暑の時期で)体調と体力に不安がありながらも、池袋サンシャインシティの噴水広場に行った。

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 短い時間のトークだったけども、5人の動く姿と声をそう遠くないところで体感することができた。即興で披露してくれた、第2クールOP曲のコーラス部分には、驚くしかなかった。

 2nd ライブの開催が発表された時にはひたすら喜んだ。会場が横浜アリーナということもあってキャパシティが大きく増え、それだけチケット購入のチャンスも広がるに違いなかったからだ。
 9月下旬発売のセカンド・アルバム封入特典の先行抽選予約には外れてしまった。後は一般発売にひたすら望みをつなぐしかないだろうかと思っていた。でもあきらめきれず(それほどまでにセカンド・アルバムの内容も素晴らしかったからだ)、翌10月発売のBD/DVDの封入特典での抽選に賭けてみることにした。普段は買わないようにしているのだが、この特典にはそれだけの価値があるものだという思いがあった。

 当選した。何度か応募していて初めて目にする文字があるメールを受け取った。嬉々として入金した。あとは年が明けてからチケットを発券して、本番に臨むだけだった。





 そして2017年1月29日、追加公演の横浜アリーナに参戦した。


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 季節柄ずっと気がかりだった天候は、一週間前には問題なさそうな天気予報になっていた。交通手段がなにかと止まったりしがちな鉄道路線だったが、こればかりは祈るしかなかった。
 だけど万が一のことも考えて、開場時刻にはだいぶ余裕を持って家を出た。新横浜へと向かう路線に乗り換えると、グッズや着衣から明らかに同志と思われる乗客の姿がちらほらと見かけることができた。駅を出て、案内表示に従って進むと同じ方向に歩く人の姿もあり、ちょっとした流れになっていた。この後、同じ空間で体験を共有することになるオーディエンスたちは少しずつ数を増やし続けていた。

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 実はチケットを発券した時、そこに印刷された席の情報に驚いた。今までに参戦してきた数々のコンサートでも屈指のポジションだったからだ。開場してから席に向かって足を進めているとそれがさらに実感できた。この運命の女神の采配にはひたすら感謝するしかなかった。

 開演してからの時間は、まさに夢のようなものだった。陳腐な表現だが、ほんとうにそうだったのだから。
 直近に発売されたばかりのアルバムに収められた新曲の一つ、「ようこそ! ワルキューレ・ワールドへ」は明白にオープニング・アクトのためのものと感じられたが、そのプロローグ部分の「ワルキューレの騎行」のモチーフが流れる(ご存じだろうか? ワーグナーの楽劇「ワルキューレ」では、このパートじたいがまさしく第三幕の前奏曲なのだ。)のに合わせてステージ上のスクリーンに映し出される巨大なマクロスエリシオンの姿、それだけで気分が高揚してしまうものだ。
 続く曲は本編中ではたった一度しか使われなかった大好きな「Hear The Universe」。これだけで一気に最高潮だ。
 こうして続いた持ち歌をほとんどやり尽くしてしまった3時間超のステージは、今にしてみればあっという間のものだった。ただただひたすらに楽しんだ。歌も、バンドの演奏も、パフォーマンスも、ゲストの登場も、どれもこれも最高だった。最高だとしか言いようがない。
 MCでのメンバーそれぞれのコメントにはうるっとなった。最後のアンコール曲ではそれまでもなかなかのレスポンスを見せていたオーディエンスがさらに一体となってステージを盛り上げた。繰り返しになるが、ほんとうに夢のような時間だった。


 帰宅してもまだなお抜けきらない浮遊感は、けっしてPAの音圧で耳に影響が出ていたせいだけではないだろう。終わったという感覚と、夢から覚めたくないという心情が渾然一体となったものなのだろう。かっこつけた言い方をするなら。
 そんな感覚は翌日にもまだ残っていた。心がどこか、あの時間と空間にもっといたかったと訴えていたのかもしれない。会場で使ったサイリウムが、翌朝になってもまだ鈍い光を発していたように、さめやらぬ感覚が消えるのを躊躇っていたのかもしれない。

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 こんなことは正直初めてのことだった。ムーンライダーズの活動休止コンサート、中野サンプラザの後ですら、ここまでの感覚には襲われなかった。
 なんという感覚。なんという体験。素晴らしいとしか言うべき言葉が思い浮かばない。

 ワルキューレはとまらない。自分の中では驚異の歌姫たちはまだ走り続けている。


「ワルキューレがとまらない/ワルキューレ」Music Video(2chorus.ver)






余談 その1

 本編の第6話は、主人公ハヤテが戦闘で初めて敵兵を殺してしまうエピソードがある回だった。地上に戻り、ハヤテはその結果と重圧、そして責任について悩み、同じΔ小隊の隊員からどう抱えていくかを諭されることになる。

 そんなシーンで思い出したのが、伊藤計劃の長編「虐殺器官」での数々のエピソードだ。
 虐殺器官の主人公はアメリカ軍の暗殺を実行する部隊に所属する兵士だが、任務として少年兵が敵として存在する可能性がある状況で、カウンセリングにより感情面での影響を抑圧する場面が登場する。そして彼らは任務の際には身体に対する「痛み」の感じ方さえをも抑制して活動していく。
 そんな彼も、終盤近くには自ら手を下したり、遭遇した死への関わり方について振り返っているが、彼自身はそこに明確な回答も赦しも得られないでいる。

すべての死者を忘れるな、と (中略) 言いながら、ぼくはまだ自分の抱えた罪をどうすればよいのかわからずにいる。

早川文庫『虐殺器官』(新版)より

 ハヤテの問題はそこまで深く描かれることはなかったが、後に彼の父親のエピソードとして再話されているようにも思う。
 だから、父、ライト・インメルマンの描写がそこまで濃くはなかった事は、TVシリーズでもったいない点の一つとして感じている。


余談 その2

 ハーモニー・ワークのできるアイドル・ユニットといえば、実はモーニング娘。もはじめのうちはそういう楽曲ばかりだった。スマッシュ・ヒット曲「LOVEマシーン」以降はユニゾンとパート割という楽曲になって行ってしまうが、その直前のシングル「真夏の光線」では厚いコーラス・ワークを聴かせてくれている。


モーニング娘。 『真夏の光線』 (MV)

 この曲は、安倍なつみがメイン・ヴォーカルで後はコーラス要因じゃないかという声もあったらしいが、MVでの楽しそうな光景を見ているとそんなことはぶっ飛んでしまう。
 それに何か似てはいないだろうか、ワルキューレの明るくポップなチューンに。

 実はモーニング娘。の曲で好きなものの一つだ。


余談 その3

 そう、今、また配信で第1話からじっくりと見直し始めているのですよ……。



Walkure Trap! (通常盤)

Walkure Trap! (通常盤)

ワルキューレがとまらない

ワルキューレがとまらない

一度だけの恋なら/ルンがピカッと光ったら

一度だけの恋なら/ルンがピカッと光ったら

絶対零度θノヴァティック

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