勉強で思い出したこと

 自分では自分のことをけっして「勉強ができない」とは思っていなかった。殊更に高校時代は「できない」のではなく「しなかった」。

 いや、勉強せずとも授業について行くことができた、などと主張したいわけでは無い。逆に受験テクニックを前面に出したり、丸暗記を前提にした授業には嫌気がさして、特に高校生の間は勉強をしなかった日々を過ごしていた。
 それでもすべての教科に対してそうだったわけではない。生物は興味を持って取り組むことができた。ATPあたりの構造は暗記していないけどね。選択科目の芸術はそれなりにやっていた。ただ、科目担任が個性が強すぎる教師だったので、それなりに覚めてみてはいた。

 繰り返すけども、勉強は嫌いだと感じてはいない。でも、丸暗記とかいうのは面白くない。やる気が無い。興味が持てればそれなりにのめり込むこともあるので、それなりにその後もやってこれている。はずだ。たぶん。

 そんな感じに緩くやってきた勉学だが、一度だけちょっとした危機があった。

 それは小学校の低学年の頃。算数で「九九」が始まったあたりのことだ。風邪を引いて数日、下手すりゃ一週間ほど学校を休んでいる間に九九が始まっていて、授業に復帰したときに呪文のような文言がまったくわからなかったので呆然とした。現在の意識と知識で言えば、まさに「呆然と」した。ほんとうにわけがわからなかったのだから。
 それでも必死に追いつこうとした(はずだ)。なんとしてでも呪文を覚えようとがんばった(はずだ)。あの「ににんがし、にさんがろく、にしがはち……」とひたすら覚えなくてはいけないあの呪文を。

 ああ、そうか。もしかして丸暗記しなくてはいけない、というものがあまり好きになれないでいたのは、こんなところに原因があったのかもしれない。今にして思えば。

 でも、だいじょうぶ。学校を卒業してからでも学ぶことはできるし、興味を持つ対象も見つかるし、勉強は一生もの。