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*[novel]習作・断片 2012.Mar.

novel

 また文房具を見に来ている。うちからは駅の反対側、そんなに大きくはないけど町まで出かけるのは面倒。だからよく使っている。品ぞろえもわたしからすれば悪くない。ほしいものは何とかそろう。
 今日も買うものは決まっている。B5サイズのリングノート。表紙が厚いのがポイント。これは大切。今日はそれともう一つ。店の中をぶらぶらとしていて見つけた練り消しゴムの新製品。試してみたかったのでノートといっしょにレジに持っていく。
 ノートはわたしの生活の中で大事なもの。いつでも持って歩いている。寝るときと、バスタイム以外はだいたいいつも。店を出てすぐ、買ったばかりの袋に入ったリングノートと練り消しゴムは肩にさげたバッグにしまい、かわりに今使っている最中のノートを取り出す。それとお気に入りのシャープペンシルも。
 今使ってるノートの残りはあと10枚くらい。でもきっとそれも今日には使い切ってしまうはず。ほら、さっそくだ。わたしは足を止め、他の人の邪魔にならないことを確かめるとノートを開き、新しいページにシャープペンシルを走らせる。
 交差点の角にあるコーヒーショップ。入り口の脇の立て看板と並んで置いてある空っぽの樽。上には手書きの営業中の文字だけの札と、日差しを浴びながら丸くなっている野良猫。店の中からは買い物帰りの主婦が三毛猫の背中をじっと見守っている。
 そんな光景をさっとスケッチする。今日はたぶん5分くらい。細かいところが気になったらあとでまた手を入れる。今は目にしたものを、印象に残ったものを形にしておけば大丈夫。その場であまり時間をかけすぎると次の何かのチャンスをふいにしてしまうかもしれない。あくまでもさっと残しておく。そうしている。
 こういう使い方をするから、ふつうの綴じのノートよりもリングになってるほうがわたしには便利。罫線があってもあまり気にしない。もともと薄い色だし。いちどいちばん小さいスケッチブックを使ってみたこともあるけれど、あれは表紙が柔らかくて持つのが大変だった。わたしの持ち方が下手なだけかもしれないけど。

 わたしは世の中を、たぶん他の人とは違って、一歩退いたところから眺めている。
 観察する。わたしは冷静に観察する。そしてスケッチに残す。それだけしかわたしはしない。残すことでしか世界には関係しない。かっこつけてるだけかもしれない。でもわたしはそれだけしかしない。