ヘヴィにいこう

 誰しも音楽をヘヴィ・ローテーションで聴きまくるということがあるのでは? 自分の場合、明らかに精神の揺れ幅が両の極に振り切っているタイミングは特定のアルバムをヘヴィ・ローテーションすることが多い。ざっと書き出してみたら、そんなに数も多くなかったので、どちらの極かはあえて記さずに、まとめてみたい。

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近ごろ気になる作品

 もう最新号が出ているので、いずれも前号掲載のこととなってしまうが、最近気にしている作品を二つほど。

斉木久美子「かげきしょうじょ!!」

 10年に一度の大運動会のエピソードも一段落したところで、スピンオフ・ストーリーが登場。スピンオフでは主役の二人以外のキャラクターを焦点にして読み手の心揺るがすものを出してきている。
 前回は鮮烈な真夏の光景と夢を目指す物語で、きらっきらときゅんきゅんと、そして切ない仕上がりとなっていたが、今回は冬組トップスターの音楽学校時代の出来事。

 そこにあるのはいくつかの夢と挫折のモチーフ。華やかな舞台の世界に夢を求めていても、現実は時に残酷に運命を強いてくる。でもそれに挫けずに、新たな夢を目指す展開は作品内で取り上げている「オペラ座の怪人」のモチーフとも響き合って、実に泣ける物語になっている。

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 来月には最新刊となるコミックスも発売となる上に、集英社版の物語も、新たに電子化予定という。そこでは予科生同期の他のメンバーたちの物語が、奈良っちのヘヴィな過去が、白泉社版をより楽しむために大切なエピソードが満載だ。

かげきしょうじょ!! 4 (花とゆめコミックス)

かげきしょうじょ!! 4 (花とゆめコミックス)



縞あさと「君は春に目を醒ます」

 縞あさとは注目している作家の一人。前作「魔女くんと私」では、魔法が存在する現代社会での物語だったが、今回は医療技術としてのコールドスリープが存在する現代社会での物語を始めた。

novels.hatenablog.com

 主人公が兄のように慕う17歳の高校生男子は、病気の治療方法が確立するまでの間、人工冬眠で病状の進行を抑止する処置を受ける。そして7年が過ぎ、目を醒まし治療を受けた男子は、主人公と同学年になり、学校生活を過ごすことになる……。

 ある意味ものすごくベタな設定ではあるが、そんなものをはね飛ばすくらいきゅんきゅんとさせてくれる。そしてなによりも、第1話はものすごく他メディア展開すると映えそうな光景が目白押しだ。たとえばアニメに。そうすることによって主人公の心情や、時の経過などをより効果的に表現することができるようになると思う。

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 ああ、自分にその能力があったなら! ほんとうに映像化してみたいと思わされた作品だった。



......

 あれ? そういえば二つとも白泉社系だった……。

「キング・オブ・アイドル」それで「K・O・I」

 週刊少年サンデー若木民喜の新連載が始まった。タイトルは「キング・オブ・アイドル」。

websunday.net

 最初に出た告知カットでは「K・O・I」だけがあり、もしかしたら「恋」とかけているのだろうかと考えていたが、まずは略した頭文字で来ていた。
 でも題材は女子アイドルなのになぜにキング? その答えを示すものは連載初回の中にすでに示されている。

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ヲタよ、想起せよ!

 原書、邦訳版ともにカヴァー・アートが映画「パシフィック・リム」を連想するSF長編『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』(ピーター・トライアス 著、中原尚哉 訳、早川書房)を読み終えた。この時期に、ようやくだが。


www.hayakawa-online.co.jp

 イラストは、ほんとうにパシフィック・リムで活躍したイェーガーを思い出させる。

http://www.gizmodo.jp/images/2016/08/160809_usojp7.jpg


 ただし、本作中でのこういった「メカ」はメインの存在ではない。それでも読んでいて残る印象は大きいが、もっと根本にあるのは、第2次世界大戦で日独が勝利して、アメリカを分割統治する世界、そう、フィリップ・K・ディックの『高い城の男』と同様の設定の作品世界だ。
 『高い城の男』では、作中人物のホーソン・アベンゼンが記す小説「イナゴ身重く横たわる」が、アメリカが勝利した世界 (すなわち読者のリアルにリンクする世界) を示していて、その存在を徴づけるのが易経なのだが、『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』(以下『USJ』)では、「USA」というゲームであり、その媒体としてのツール、「電卓」だ。

 「電卓」は、巻末での大森望氏の解説によると、

 パーソナル・コンピューターやスマートフォンのかわりに、電卓(原文は、portable calculator を縮めた portical という造語) と呼ばれる携帯端末が高度に発達したジャパネスクなハイテク世界を背景に、ポストサイバーパンク的なノワールを展開する点も、『高い城の男』との大きな相違点。

とある。読んでいるとこの電卓は、スマートフォン様な高解像度大画面のようだが、ハードウェア・キーも備えていて、感覚的にはどちらかというと「ケータイ」に象徴されるフィーチャーフォンのような感じもするし、機械制御のような動作もしているので、CPUチップのような一面も有しているようだ。
 それでも電卓が人々に行き渡り、生活の中で欠くことができない存在であるのは読者側の現実にも通底していて、スリリングなリアリティを生み出している。



 余談ながら自分にとって電卓といえば、ドイツ人のエンジニア的なアーティストからもたらされるものというイメージがとても大きい。

www.youtube.com

 ただ『USJ』の作品世界中ではこのようなライブは公式には行われることはないだろう。なぜなら、ドイツとは同じ戦勝国でありながらも、世界統治をめぐって覇権争いを繰り広げているようで、文化交流はそんなに深くはないかもしれないからだ。



 閑話休題


 先に引用した大森望氏の文章からも伝わるかもしれないが、『USJ』は『高い城の男』の続編ではないし、同一の世界の物語でもない。設定の根幹となる部分の一部が同じシチュエーションではあるが、別個のものだ。
 むしろ直立二足歩行する大型の「メカ」とか、大きな意味を持ってくるゲームとか、現代のヲタクが、より想像力を広げやすいメソッドがあふれている。この「メカ」は、映画「パシフィック・リム」でのイェーガーをめぐるあるエピソードに通じるような描写もあり、けっしてメインで使われ続けるメソッドではないものの、とても印象的だ。
 メカとしての機種もいくつも存在するし、戦闘シーンもあり、映像化するとものすごく映えそうに思うのだが、誰か映像コンテンツ化しようというツワモノなプロデューサーはいないだろうか。
 ただし、『USJ』はかなりハードな描写も続出するので、そのままでは現代では企画として通りにくいだろうが。斬首とか、拷問とか、今の時代ではちょっと難しいかもしれない……。

 だから、まずは、想像力をフルパワーで稼働させてみることをおすすめしたい。読書として。
 その結果、かなりエキサイティングなヴィジョンが連続すること間違いない。

 そして行き着く最終章、その意味を知ると……ものすごいドラマが待っている。そこには。なかなかのインパクトになると思う。だからおすすめだ。読まないと損をする!



ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)